いよいよ実用フェーズに入ったOpenStack。従来型の仮想環境から乗り換える企業も増えている。だが、OpenStack構築・運用の内製化は、やはり一定のスキルやノウハウがなければ難しいのだろうか?

日本でも導入が進んでいる、OpenStackは既に実用フェーズに

 OpenStackというと、面白そうだけれど、本番環境に採用するのはまだまだ先というイメージも強い。しかし、そのイメージは過去のものになったようだ。2016年4月25日に開催された「OpenStack Summit in Austin 2016」で発表されたユーザー調査によると、実に65%ものユーザーが本番用途でOpenStackを採用している。また、米通信大手のVerizonは、Dell、Red Hat、Big Switch Networksの協業によるOpenStack環境を、ネットワークを制御する通信機器の機能をソフトウェアで実行する「NFV」(Network Functions Virtualization)システムに採用したことを発表。またAT&TもNFVシステムへのOpenStack採用を発表し、まさにOpenStackが実用フェーズに入ったことが印象付けられるイベントであった。

 国内でも大企業では既に本格活用が始まっており、比較的小規模なケースでも本番環境に導入する企業が増加しつつある。規模の大小を問わず、OpenStackの導入は確実に進んでいる。もう「難しそうだから」と様子見する時期は終わったといえるだろう。ビジネスのスピードが加速し、より迅速にサービスをリリースできる環境が求められている。事業部や経営層からの強い要望を受けて、OpenStack導入に踏み切る企業も少なくない。


レッドハット 佐々木 宏忠氏

 そんな中、2016年5月17日にRed Hatは、商用OpenStackディストリビューションの最新版となる「Red Hat OpenStack Platform 8」(OSP 8)を発表した。レッドハット テクニカル・セールス本部でソリューションアーキテクトを務める佐々木 宏忠氏によると「今回の新バージョンでは12番目のOpenStackのバージョンである『Liberty』に対応しました。OpenStackも中心的な機能は既にかなり成熟しており、使い勝手や性能強化がメインのアップデートとなりました」ということだ。具体的にはネットワークのIPv6対応やOpen vSwitchの新バージョン(V2.4.0)対応などがあるが、注目は分散ストレージ技術の「Ceph」ストレージが標準で含まれている点だ。「最大64TBという制限はありますが、追加費用なしでCephストレージを利用でき、別途ストレージを用意する必要がなくなります」(佐々木氏)というから、エントリーとして使いたい企業にとっては魅力的だ。OpenStack導入のハードルを大きく下げる製品として期待は大きい。

OpenStackを“従来型仮想環境の代わり”にしてはいけない

 現在、VMwareなどをベースとした仮想環境で運用している企業は多いだろう。だが、もしもその仮想環境の代わりにOpenStackを使おうと考えているならば、それは間違いだという。「従来の仮想環境と同じことを実現したいならば、OpenStackに移行すると構成が複雑になりますし、使い方もイチから覚えなければなりません。あえて乗り換える必要はないでしょう」(佐々木氏)。例えば、迅速なデプロイはもちろんだが、さまざまなことを自動化する場合、APIが多く公開され、ツールもそろっているOpenStackのメリットは大きいという。佐々木氏は「生産効率を上げ、従来の仮想環境ではできない“クラウド的な”使い方がビジネスのイノベーションを生むために必要だと考える企業には、間違いなくOpenStackを勧めます。また、DevOpsを実践したいと考えている企業もOpenStackに価値を見いだしているようです」と説明する。

OpenStackの内製化を実現したシーエー・モバイル


デル 増月孝信氏

 いざOpenStackを導入するとなったらどう進めればよいのか、その具体的な事例を紹介しよう。モバイル広告、モバイルコンテンツを扱うシーエー・モバイルは、スマートフォンの普及による転送量やデータ容量増加に対応すべくオートスケールできる環境への移行を検討した結果、OpenStackの導入を決めた。社内には優秀なエンジニアがいるものの、OpenStack運用の経験はない。スキルや技術に不安を感じていた同社が選んだのが、DellとRed Hatが提供するOpenStack Platformだった。その経緯をデル エンタープライズ・ソリューション事業本部でクラウドビジネス推進マネージャーを務める増月孝信氏はこう語る。「シーエー・モバイルさまからは、構築を全て“丸投げ”するのではなく、自社に技術やスキルを蓄積したり、相談したりできる環境が欲しい、というご要望をいただきました。そのためOpenStackの技術的なナレッジを含めた情報交換をするところからスタートしました。『この機能は技術的に面白いが、実用レベルではない』といったOpenStackでできること/できないことについて私たちのノウハウをベースに本音でお話したことで、良い信頼関係を築くことができました」。当初はPoC(概念実証)環境での導入を目指していたが、早い段階で本番環境導入へと方向転換。冗長構成などを追加し、無事リリースする運びとなった。

 ここで活躍したのが、レッドハットのコンサルティング部隊だ。あまり知られていないが、レッドハットではコンサルティングサービスを展開しており、「自社内でも相当優秀なエンジニアが対応しており、さまざまな問題をかなり効率よく解決できる」(佐々木氏)という。設計・構築支援から、運用フェーズにおける問題解決支援、トレーニングの提供まで行うが、「お客さまが自分たちで使えるようになること」を目指し、全ての作業を代行することはしていない。実は「システム内製化」の流れもあり、シーエー・モバイルのようにOpenStackに関しても自社で構築・運用するためにサポートして、というニーズが増えているという。OpenStackを導入したとしても、新たなサービスをリリースするたびにベンダーに依頼しているようでは遅すぎる。OpenStackも自社で運用したいが、スキルがない……そんな企業にとってレッドハットのコンサルティングサービスは頼もしい存在だ。

商用ディストリビューションはどこが「企業グレード」なのか

 商用ディストリビューションである「Red Hat OSP 8」では、ユーザー企業の利用で求められる品質をクリアすべく徹底的な検証(クオリティーアシュアランス)をしているが、提供するものはコミュニティー版と全く同じだという。「クオリティーアシュアランスの過程でバグを修正した場合は、必ずコミュニティーにフィードバックしていますので、ソフトウェアとしてコミュニティー版と違いはありません。OSSではOpenStackだけの提供となり、LinuxやKVMとの組み合わせはご自身で考える必要がありますが、レッドハットでは動作検証をした上でパッケージ化しています。ワンストップで導入でき、不要なトラブルを避けられるのは大きなメリットでしょう」と佐々木氏は述べる。ちなみに新機能の要望があっても、Red Hatのディストリビューションだけに追加することはしない、というスタンスを取っているそうだ。LinuxもKVMも展開するRed Hatだけに、ともするとベンダーロックインに見えてしまうが、これならばいつでもコミュニティー版に乗り換えることが可能だ。確かにクオリティーアシュアランスには時間がかかるため、最先端の機能をすぐにどんどん取り入れたいならばコミュニティー版を使うしかない。ただし、それを使いこなせるエンジニアがそろっていることが大前提だ。多くの企業では、品質が担保された商用ディストリビューションを採用するのが妥当だろう。

 また、Dellとの協業によってハードウェアとの動作検証もしている。ドライバやファームウェアのトラブルは意外と多く、こちらを自社で全て対応するのは難易度が高い。OpenStack Platformならば、OpenStackの新機能や新しいチップセットを搭載したハードウェアなどの動作検証も完了しており、導入もスムーズだ。

 また、Dellではエンタープライズ向けのOpenStackソリューション「Dell Red Hat OpenStack Cloud Solution」で採用している「リファレンス・アーキテクチャ」を公開している。これはOpenStackをこの通り構成すれば動く、といういわば“鉄板構成”をまとめたもので、DellとRed Hatの持つノウハウが詰まった貴重な資料だ。例えば、OSSのOpenStackは柔軟な構成が組めるため、冗長構成を設計する際、導入企業ごとに試行錯誤している状況だった。リファレンス・アーキテクチャではOpenStackの冗長構成についても解説しており、構成に従うことでそのまま実装できる。「冗長構成の他にも、規模が大きくなった際のコストバランスなどを考慮した設計テクニックなども公開しています。OpenStackはアーキテクチャが柔軟なため『こんなこともできるのでは』と理想を描く方も多いのですが、実装にはコツがあり、実際に使わないと分からないことも多い。だからこそ私たちはさまざまな構成を検証し、その情報を積極的に公開しています」(増月氏)

 クラウド(IaaS)の性能のベンチマークである「SPEC Cloud IaaS」についても、DellとRed Hatは業界で初めて測定結果を公開した。ここにも情報公開の姿勢が見て取れる。こういった数々の取り組みやリファレンス・アーキテクチャの裏には膨大なノウハウが蓄積されている。それこそが「企業グレード」をうたう商用ディストリビューションの大きな価値だ。理想のアーキテクチャを考えても“絵に描いた餅”で終わっては意味がない。1人で悩む前に、グローバルでの導入実績や検証結果をベースとしたノウハウを持つDellやRed Hatに相談するのが賢明だ。