ハイブリッドクラウド環境の構築は、どこまで簡単になったのか

 ハイブリッドクラウド環境を構築する際には、これまでのオンプレミスとは違ったポイントを考慮しなければならない。利便性、セキュリティ、接続性などをどう担保するかはもちろん、従来のオンプレミス環境とパブリッククラウドでは用途もスピードも大きく異なり、それをどうハイブリッドで運用するかが大きな問題となる。


デル 諸原裕二氏

 この問題の解決策として登場したのが、DellとMicrosoftの共同開発によるハイブリッドクラウド製品「Dell Hybrid Cloud System for Microsoft」(以下、DHCS)だ。国内で2016年4月5日に発表された本製品は、Microsoftのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」とプライベートクラウドをシームレスに接続するハイブリッドクラウド環境を、わずか数時間で構築できるアプライアンスである。製品発表に続き、具体的な運用や使い分けなど、より実践的な内容が盛り込まれたセミナー「ハイブリッドクラウド実現への近道」が同月20日、東京ミッドタウンで開催され、デル 執行役員 諸原裕二氏のあいさつで幕を開けた。

 同氏によるとDHCSはデルが提唱する「Dell Blueprint」の1つに位置付けられるという。Blueprintは企業のバックエンドシステムで必要な6分野(クラウド、仮想化、VDI、UC&C、ビッグデータ、HPC)について、工場で組み込んで出荷するアプライアンス(エンジニアソリューション)と、デルがユーザー企業に代わり長時間の検討/検証を実施しワークロードや規模ごとに用意した最適なソリューション(リファレンスアーキテクチャ)があり、導入・運用コストを徹底的に下げることが期待できる。その一環としてMicrosoft Azureと連係してハイブリッドクラウドをどう簡単に作るかに的を絞ったのがDHCSである。「この製品では、販売だけでなくコンサルティングや閉域ネットワークの提供など、これまで以上にパートナー企業と協業しながらお届けすることに注力する」と同氏は話した。


図1 統合システム、Dell Hybrid Cloud System for Microsoftの特徴

セルフサービス化されたプライベートクラウド環境が身近なものに


デル 馬場 健太郎氏

 続いて登壇したデル エンタープライズ・ソリューション事業本部 馬場 健太郎氏からは、DHCSの具体的な内容について紹介があった。

 DHCSは1つのラックに必要なコンピューティングやネットワーク、ストレージ、ソフトウェアなどのリソースを工場で組み込んだ状態で出荷する前述のエンジニアソリューションの1つだ。「電源を入れてからわずか数時間、ハードウェアやミドルウェアのエンジニアリングも不要でオンプレミスのハイブリッドクラウドサービスが利用できるようになる」(馬場氏)。またDHCSはサーバOS「Windows Server 2012 R2」の仮想化機能「Hyper-V」で構成されているため汎用的な環境だといえるだろう。

 そもそもインフラを仮想化している企業は多いが、仮想化とプライベートクラウドはどう違うのだろうか。その違いは「セルフサービス化」「高度な自動化」ができているかどうかにある。「普通のプライベートクラウド環境は、仮想環境を熟知している人が操作しなければサービスとしてユーザーに提供できない。DHCSでプライベートクラウドを構成すれば、仮想環境の知識がなくても必要なワークロードを作り出すことができる」と馬場氏は語る。

 DHCSで高度な自動化を実現するのが運用管理ソフトウェア群の「System Center」、そしてセルフサービス化を担うのがクラウド運用ソフトウェアの「Windows Azure Pack」だ。「従来は仮想化やクラウドの環境ごとに異なる管理ツールを使わなければならなかったが、プライベートもパブリックも同じ画面で同じように操作できることが最大の特徴」(馬場氏)だという。

 DHCSではエンドユーザー自身がポータルサイトにログインして、必要なサービスを立ち上げることができる。「従来、システム管理者が全てやらなければならなかったことをエンドユーザーにアウトソースすることで、スピードアップとコスト削減につながる」と馬場氏は話す。会場では実際にセルフサービスポータルを使って簡単にサービスを立ち上げるデモも紹介した。

 「これまでイメージが先行していたハイブリッドクラウドが身近に手に入る時代となった。どう有効活用するかが企業競争力を上げるための重要な課題となるはずだ。それを簡単に使えるようにするのがDHCS。すぐに使えるハイブリッドクラウド製品だと理解いただきたい」。馬場氏はこう語り、セッションを締めくくった。

ハイブリッドクラウドを無駄なく、無理なく活用するポイント


日本マイクロソフト 高添 修氏

 日本マイクロソフトでエバンジェリストを務める高添 修氏は、ハイブリッドクラウドを無駄なく、無理なく活用するための3段活用法を紹介した。

 最初に挙げたのは「クラウドファースト」。やはり新しいことをやるならばパブリッククラウドが適しているという。「ユーザー企業に最速でITを届けるのがMicrosoft Azure。最近のトレンドであるIoT(モノのインターネット)も、必要なパーツはMicrosoft Azureにそろっているので、迅速なサービス化が可能になる。まずはクラウドで検討して、どうしてもできないことがあればオンプレミスを検討するという考え方がいいだろう」

 そして2つ目がプライベートクラウドだ。クラウドファーストの考え方は確かに普及したものの、全ての企業が全てのシステムをクラウドへ移行できるわけではない。高添氏はこうした事情を把握した上で、オンプレミス環境を単なる仮想化で終わらせず、プライベートクラウドにすることの重要性を説いた。

 その鍵を握るのが、馬場氏のセッションでも登場したWindows Azure Packであり、社内の仮想化基盤を一気にセルフサービス化できるという。高添氏は「Windows Azure Packのポータル画面には、Microsoft Azureで行った試行錯誤の結果が全て反映されている」と話す。つまり管理者が戸惑うポイントやセルフサービス化で失敗しがちな点がクリアされており、使いやすいインタフェースをそのまま利用できるということだ。

 3点目はいよいよ、両方のクラウドのメリットを活用するハイブリッドクラウドだ。無理せずに始めるハイブリッドクラウドの活用法として高添氏が挙げたのが、災害対策(DR)/バックアップやネットワーク延長である。DHCSは障害復旧サービスの「Azure Site Recovery」やバックアップサービスの「Azure Backup」を搭載し、サーバやクライアントのシステム/データをパブリッククラウドに簡単にバックアップできる。まずはここから始めるのも1つの手段だろう。また、ネットワークに関してもVPNや専用線サービス「Azure ExpressRoute」を使えば既存環境とMicrosoft Azureを簡単につなげることができる。これまでのネットワークの延長線上にパブリッククラウドを活用できるようになるという。

クラウドの特性を生かすには、ネットワークが重要


インターネットイニシアティブ 吉川義弘氏

 そのExpressRouteの詳細については、インターネットイニシアティブ(IIJ) クラウド本部 吉川義弘氏のセッションで紹介された。ExpressRouteはMicrosoft Azureとの閉域ネットワークを考える際に重要な存在である。吉川氏によると、ExpressRouteはいわばMicrosoft Azure側の“エッジルーター”。「ここに私たち通信事業者が接続し、企業の専用プライベート接続を実現する」(同氏)という。同社でも「IIJクラウドエクスチェンジサービス」として、Microsoft Azureと閉域網接続を実現するサービスを用意している。「接続モデルにも幾つか種類があるが、当社はキャリア回線も併せて提供するレイヤー3(L3)モデルで提供している」と同氏は話した。

 ExpressRouteとインターネット回線の違いについて吉川氏は「ExpressRouteはMicrosoft Azureへの専用プライベートレーンだと考えてほしい。セキュリティとパフォーマンスを確保し、早く快適に使える環境を実現する」と説明した。例えばユニファイドコミュニケーション(UC)システムの「Skype for Business」と既存の電話網を接続した音声通話や、Skype for Businessでの会議内容を配信するサービス「Skype Meeting Broadcast」による動画のリアルタイム配信などへと用途が拡大していくことを考えると、インターネット接続ではそのパフォーマンスに不安が残る。吉川氏は実際に、インターネットとExpressRouteの速度比較を紹介し、ExpressRouteの安定性は明確だと説明した。DHCSでハイブリッドクラウド環境を構築するとしても、閉域ネットワークは必須である。こうしたサービスも要チェックだ。

パブリック/プライベートクラウドはSLAで使い分ける


日本ビジネスシステムズ 柳沼哲也氏

 最後に、具体的にどうハイブリッドクラウドを使い分ければよいかを紹介したのが日本ビジネスシステムズ(JBS) マーケティング本部の柳沼哲也氏だ。「パブリッククラウドとオンプレミスの決定的な違いは『SLA(サービスレベル契約)』。これに合わせて最適な場所に配置することが重要だ」という。例えば、Microsoft Azureの仮想マシンのSLAでは「99.95%以上の時間において外部接続が確保される」ことを保証しており、サービス利用時に合意することになる。

 システムによって求められるSLAが異なるのは当然だ。「まずは本番系、テスト環境用など用途に合わせたサービスカタログを用意し、それぞれのSLAを定義することを勧めたい」と柳沼氏は話す。例えば、SLAも価格も高いのがオンプレミス環境。SLAは低いが価格も安いのがクラウドサービスだ。SLAを明確に示すことができれば、社内のエンドユーザーはその情報をベースにサービスを選択できる。

 サービスカタログのイメージとしてはパブリッククラウドで提示されているものが分かりやすいだろう。Microsoft AzureでもCPUやメモリ容量、ディスク性能などが定義されたサービスカタログを提示している。価格もクリアになっているのでユーザーがニーズに合わせて選べるのだ。「プライベートクラウド環境でサービスカタログを提示する場合も、DHCSであれば課金機能などの豊富な機能と使いやすいポータルがあるので簡単にできる。こうした使いやすい製品も登場し、まさにクラウド化への機は熟したといえるだろう」と語った。


 パブリッククラウドとプライベートクラウドをシームレスかつ迅速に利用できるDHCSは、ハイブリッドクラウド時代に選択するITインフラとしてふさわしいといえるだろう。まずは検証をお勧めしたい。「デルソリューションセンター」では、DHCSをはじめとした各種製品をユーザー企業の環境に応じて無料で試すことができる。ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。


図2 デルソリューションセンター(東京・三田)